クリーンルームとは、厳しい規格規定をクリアした空気のきれいな状態が保たれている室内及び空間のことです。
クリーンルームでは、空気中に存在する塵埃を「ミクロ単位レベル」で除去し、温度・湿度なども一定の範囲でコントロールされております。
そのため、クリーンルームの規格では「ナノメートル」・「マイクロメートル」といった単位が使用されます。
世界的統一指標となる規格「ISO14644-1」によると、クリーンルームとは以下のように定義されております。
「浮遊粒子濃度が制御されており、室内における微小粒子の流入、生成及び停滞を最小限にするように建設され、温度・湿度・圧力などが必要に応じて制御されている部屋」
クリーンルームで管理される項目は非常に多岐にわたります。
また、その対象となる項目も施設によって異なってくるでしょう。
半導体製造施設であれば、わずかな粉塵の癒着でも計測機器や基盤に狂いが生じる可能性があり重要な項目です。
食品工場であれば、細菌に対する管理が徹底されなくてはいけません。
設計管理者であれば、消防法に基づくクリーンルームの設置基準をクリアする為に、ダクトや風向、室圧・差圧といった空調設備に関する設計、計算項目も必須です。
これらの厳しいチェック項目をクリアして保たれている空間がクリーンルームなのです。
クリーンルームの管理は非常に厳格になされなくてはいけません。
これは、クリーンルームとは?でもご説明したとおり厳しい定義に基づいてミクロ単位レベルの塵埃(じんあい)までもコントロールされる厳しい管理がなされている空間であるためです。
では、このような厳しい管理下におかれなくはいけない施設にはいったいどのような施設があるのでしょうか?
ここではクリーンルームが実際にどのような施設で利用されているのか?について見ていきましょう。
クリーンルームが厳格な管理下において管理されていることはわかってきましたね。
では実際に建設されている設備や施設を確認していきましょう。
クリーンルームが実際に設置されている施設及び工場には以下のような施設があります。
●半導体製造工場
●液晶パネル製造工場
●医薬品製造施設
●化粧品製造施設
●食品製造工場
●病院の手術室
上記施設を見ていくと何となくクリーンルームのイメージが沸くかもしれません。
除菌された手袋、細菌の飛沫を防止するマスク、当然クリーンルーム内の作業服も細菌の繁殖などを防止する除菌されたものを使用します。
いかにも…といえるほど清潔感ただよう施設のイメージどおりではないでしょうか?
どの工場及び施設も高いレベルの清浄度が求められる場合に、クリーンルームの設置義務が生じます。
近年のIT化に伴い経済市場は大きな変化を迎えました。
情報化社会とも呼ばれる昨今では、パソコンがなくては仕事が出来ないような環境にまで変化してきました。
この情報化時代の波にのって、アナログデータからデジタルデータ化への変更も急激に行われてきました。
TVの電波をアナログとデジタルの2回線から地デジ化へ1本化としたことも、このような情報社会のインフラ整備に基づく一連の流れなのです。
情報のデジタル化の流れは今後も急速に進みます。
現実的には、まだまだ本格的な情報化社会へ進む為に必要となるであろうインフラ整備が整っているとは言えない初期段階です。
クリーンルームが求められる設備として近年急速に普及が進んでいる施設も
●PC(パソコン)
●デジタルカメラ
●AV機器
●携帯電話
などの心臓部となる半導体の製造工場が最も需要が伸びております。
クリーンルームの規格では、塵埃や細菌、ウイルスといったサイズとても小さな単位レベルの除去基準規定が定められております。
このクリーンルームで対象となる塵埃などのサイズは主にナノメートル・マイクロメートルといった非常に小さな単位レベルです。
近年では少しずつこのミクロの世界の単位を耳にするようになってきましたね。
●マイクロSDカード
●マイクロ一眼レフカメラ
●マイクロUSB
●ナノイオン
●ナノレベル洗浄の洗剤
●ナノレベルのウイルスを通さない空気清浄機フィルター
●ナノマスク
など実に様々なキャッチコピーで製品が開発されております。
MDと記載されているマイクロSDカードは多くの方が目にしたことがあるでしょう。
しかし、このナノメートル・マイクロメートルといった単位は「日常生活の範囲」においては中々耳にする言葉ではないと思います。
実感としては、相当小さいのだろう…という感覚ではないでしょうか?
聞いたことはあるけれど…
実際はどのくらいのサイズなのだろう?というのが実感かもしれません。
このナノメートル・マイクロメートルの単位は以下のとおりです。
●1マイクロメートル=1000分の1ミリ
●1ナノメートル=1000分の1マイクロメートル
ここまで小さいと、イメージすることも難しいですね。
尚、身近なメートルで算出すると1ナノは10億分の1メートルということになります。
クリーンルームではこのようなとても小さな単位を基準として規定が設けられております。
これは、シャットアウトすべき対象となるホコリや微生物などの対象物が小さなサイズである為。
現在では様々な指標としてサイズの主に基準となっておりますが、元々マイクロ単位は細菌の大きさを測る小さな単位として扱われておりました。
細菌はおよそ0.1~3.0マイクロメートルと言われており、顕微鏡でようやく確認できるようなレベルの大きさです。
また、更に小さなナノメートル単位は、空気中のウイルスのサイズを測定する為に用いられた単位なのです。
★マイクロ=細菌を測定する単位
★ナノ=ウイルスを測定する単位
尚、ウイルスレベルになると電子顕微鏡を使用しなければ見ることが出来ないサイズにまで小さくなります。
クリーンルームの規格は、各国独自の規格が幾つか存在しております。
では測定ではどの基準が用いられているのだろう?
と思われる方もいるかもしれません。
一般的に長年にわたって使用されてきた
●清浄度
●クリーン度
と呼ばれる指標。
この基準はアメリカの連邦規格「Fed-Std-209D」が根本の指標となっております。
●クラス100
●クラス100,000
といったクラス表示はアメリカ連邦政府が定めた規定数値なのです。
クラス=Fed-Std-209D規格による単位
クラス100などは日本でも未だ馴染みの深い単位ですね。
JIS規格についてご存知ない方の為の補足説明です。
クリーンルームに限らず日本のあらゆる工業製品や設備の指標が設定されている規格基準。
これがJIS規格です。
JISは「工業標準化法」に基づいてあらゆる工業関連分野の基準の統合を図る機関でもあります。
「JIS」と書かれているロゴマークをあなたも一度はどこかで目にしたことがあるでしょう。
尚、日本のクリーンルームの規格には日本工業規格
●JIS B9920
と呼ばれるJIS規格があります。
クリーンルームの規格はこのように各国で、独自のクリーンルームの基準が設けられております。
しかし、全ての国において自国の測定基準が浸透しているという現状でもないことからクリーンルームの審査において混乱を極めるケースが多くありました。
しかし、1999年、この混乱を防止する目的において新しい世界の共通規格が制定されます。
その国際基準が
●ISO14644-1
と呼ばれる新規格です。
※ISO14644=国際的な統一規格として登場
ISO規格の登場によって各国標準の規格規定が整い、現在では徐々に統一基準が浸透するようになってきております。
尚現在、米国の連邦規格はISO規格の登場により廃止、日本のJIS B9920規格についてもISOとの整合をはかり改定がなされております。
設計や施工関係者間では、現在も尚、連邦規格の使用がなされるケースもありますが、今後はISO規格が中心になります。
ですから標準として制定したISO規格を指標としておくことがベターな選択であると言えそうです。
国際的な標準規格として制定された「ISO14644-1」は、実は日本のJIS-B9920規格が骨組みとなって制定された世界共通の指標となる規格です。
※ISO14644-1は日本のJISが母体
その為、清浄度の指標となる「JIS規格」と「ISO規格」はおおまかな部分ではほぼ同様。
このように日本の検査基準が世界的な検査指標の目安となっているケースは多く存在します。
精密機械を扱う半導体製造工場の設備などのクリーン度は日本が最高レベルの技術力を誇ると言われております。
日本の検査基準のレベルが世界的に通用する証明とも言えますね。
事実、世界共通基準クラスとして規格基準の統一化がどんどん進んでおります。
ISO14644-1の清浄度規格は以下のとおりです。
クラスは9段階で各々クリーン度基準が設定されております。
ISO14644-1清浄度規格表(クラス1~9) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
ISO14644-1 | 0.1 | 0.2 | 0.3 | 0.5 | 1.0 | 5.0 |
ISOクラス01 | 10 | 2 | - | - | - | - |
ISOクラス02 | 100 | 24 | 10 | 4 | - | - |
ISOクラス03 | 1,000 | 237 | 102 | 35 | 8 | - |
ISOクラス04 | 10,000 | 2,370 | 1,020 | 352 | 83 | - |
ISOクラス05 | 100,000 | 23,700 | 10,200 | 3,520 | 832 | 29 |
ISOクラス06 | 1,000,000 | 237,000 | 102,000 | 35,200 | 8,320 | 293 |
ISOクラス07 | - | - | - | 352,000 | 83,200 | 2,930 |
ISOクラス08 | - | - | - | 3,520,000 | 832,000 | 29,300 |
ISOクラス09 | - | - | - | 35,200,000 | 8,320,000 | 293,000 |
清浄度を表す単位のひとつにクリーン度呼ばれる指標があります。
このクリーン度とはいったい何でしょうか?
この単位は、1ft3(立方フィートと読みます)の空間に対し、0.5μm(マイクロメートル)以上の粒子が何個存在するか?を示しております。
尚、1ftは=0.3048m
どうも見慣れない単位ですね。
Point!クリーン度=1ft3中に存在する0.5μm以上の粒子の数によって分別される単位
まだ馴染みの薄いISO規格ではありますが、将来的にはISOが規定する14644-1規格が標準となります。
日本では、まだまだJISが主流ではありますが、世界統一化の流れに先行して早い段階で慣れておくと良いでしょう。
尚、連邦規格で把握している方もいるかもしれませんが、同様に今後徐々に把握しておくべきでしょうしチェックしておきたい指標です。
クリーンルームのバリア構造の仕組みについて見ていきましょう。
バリア構造を、簡潔にわかりやすくまとめると以下の3つの層によって構成される構造となります。
●1次バリア
●緩衝帯
●2次バリア
この3層バリア構造と考えるとわかりやすいかもしれません。
※バリア構造=3層に渡る構造
1次バリアとは、クリーンルームを中心として考えた場合、最も外側のバリアを意味し、建築物の場合は基本的に建築物の外壁の事を指します。
次に2次バリアとは、クリーンルームそのものを覆う壁の事で、この室内の壁に関しては粉塵を溜めこまない為に内装材の規定などが盛り込まれております。
最後に、緩衝帯とは、
●1次バリアと2次バリアの間に設ける空間
の事を指し、廊下や設備機械室などがこれにあたります。
この緩衝帯を設ける条件を考えると、クリーンルームが直接外壁に接する設計になることがない点も理解できます。
●外壁によるバリア
●緩衝帯空間によるバリア
●クリーンルームの壁によるバリア
この3つのバリア性能をもつ構造をクリーンルームのバリア構造と呼びます。
防火区画として認定されている区画にクリーンルームを設置する場合は、バリア構造の条件が満たされているクリーンルームを設置する必要があります。
これは設計担当者が設計の際に確認し、バリア構造を設置するかどうかを決めていきます。
尚、防火区画の規定が定められているのは「消防法」及び「建築基準法」です。
バリア構造で設計される理由は、防火区画の認定からもわかるとおり、大規模な火災が発生した際に火災の広がりを抑制することが目的です。
化学薬品工場などでは危険物などを取り扱うクリーンルームもあります。
また爆発を起こすような危険性のある薬品を取り扱う工場が併設されている工場施設などの場合は、火災の広がりが大規模な事故へと発展する可能性も検討されます。
その為、このような条件に含まれる施設では、クリーンルームの規定、防火区画の規定双方の条件を満たす必要があるのです。
設計の方は頭を悩ますところですね。